4-2 分子構造研究系
国内評価委員会開催日:平成11年11月8日
委 員 田隅 三生 (埼玉大理,教授・理学部長) 志田 忠正 (京大院理,名誉教授) 藪崎 努 (京大院理,教授) 北川 禎三 (分子研,教授) オブザーバ 森田 紀夫 (分子研,助教授)
加藤 立久 (分子研,助教授) 国外評価委員面接日:平成11年12月13日∼14日
委 員 Professor Wolfgang Kiefer (University of Würtzburg)
4-2-1 点検評価国内委員会の報告
分子構造系の将来・展望
所内委員D:分子構造研究系の現状を説明します。第一部門の齋藤教授が3月で退官され,後任人事を行いました。し かし人事部会が決定した候補者を招聘することに失敗しました。現在このポジションは空き枠になって います。研究所全体の現状としては,三研究所合同の研究センターが発足し,基生研所属のセンターと なっています。この研究センターの発展としての統合バイオサイエンスセンターを概算要求中です。 まず,系の再編成ということを含めて分子構造系の将来を議論していただけないでしょうか。
所外委員B:分子構造系の今後や,分子研の将来に対する意見は,3年前に述べた内容と何ら変わりがないと思いま す。歴史的には高分解能分光がこの研究系のキーワードになってきたのだから,高分解能分光の現状評 価と将来展望を行ってみては如何ですか?
所内委員D:それではこの研究系の分野として高分解能分光を今後も生かして行くべきか否かを議論してください。 所外委員C:最近は世界的に高分解能分光を基礎とし,原子や分子を制御する研究など,新しいものへの応用として
広がりつつある。それは化学と物理の接点として重要である。
所外委員A:コロンバスミーティングなどの出席者を例にとって,高分解能分光の人口は増加しているのでしょうか? 所外委員C:物理の分野では人口は増えていない,他分野への広がりと変化している。
所外委員B:高分解能分光の人口は増減していないでしょう。しかし,米国内では高分解能分光の分野として悲観論 はない。落ち着いた安定した学問であって,安定感がみられる。その上で岡先生や天野先生のような天 文学への進出が盛んである。つまり,基礎がしっかりしているがゆえに,変幻自在に変化・発展してい る。その点日本の学会では,他への応用など他分野への進出がうまくいっていない気がします。 所外委員A:人口は増加していないにしても,内容が大きく変わってきているのではないですか? クラスターや天
文学の問題へと。
所外委員B:高分解能分光としての方法論はほぼ完成して進歩は止まって,今後新しい応用への展開を模索していく ことが必要でしょう。
所内委員D:「分子構造研究系」という名前を捨てるような改組も頭に入れた,系の再編成についてはどう考えられま すか?
所外委員B:基礎分子科学として何が重要なのかという観点から,高分解能分光(分子構造)が必要かを徹底的に議
論すべきで,名前の問題は二の次のような気がします。
化学者として分子間相互作用を正しく人々に知らしめることが仕事と考えます。たとえば水中のタンパ ク質の問題でも,生物学者や薬学者に対して化学者はそこに働く分子間相互作用の正しい姿を教えてい るのでしょうか? 物理化学者のやり方が荒っぽく,解ることだけを解るように説明してきたし,例え ば分子軌道法などでは状態のエネルギーですべてを片づけてきた。そこに安住しすぎた感がある。 所外委員C:確かに,日本の化学者はよく解らないことに興味を示さないようです。例えば,液体 He 中の分光を行う
と,よく解らない分子間相互作用や反応がいっぱい見つかるのですが,化学者は興味を示さない。 所外委員B:化学者は保守的です。各論的で,安定感のあるところに満足している。
所外委員A:創立当初の分子研の旗頭は「極限に挑む」でした。最近この旗頭がボケてきていると思います。 所外委員C:分子研は保守的であってはならない,チャレンジングであるべきです。
所外委員B:創立当時はもっとチャレンジングでした。若い人に機会を与えるべきです。
所外委員C:若い人たちが必ずしも,保守的ではなくチャレンジングかというと疑問ですね。今はお金で買える装置 を使って研究をして,本当のオリジナリティーが欠けている。また,新しい物を作らなくなった。他の 人の良い仕事をフォローしたがる傾向がある。
所外委員B:オリジナリティーの定義をそこまで厳格にする必要はないと思いますが,若い人が新しい物を作らなく なったことは問題です。それに数学的訓練が大きく不足している。
所外委員A:それは大学にこそ当てはまると思います。 大学との区別
所内委員D:それでは分子研と大学との住み分けについて議論願いますか?
所外委員A:国立大学・研究所の特殊法人化が現実味を帯びてきている今,分子研は大学との差をはっきり打ち出す べきです。
所外委員C:法人化は,基礎学問派は反対で,実学問派は賛成ですね。
所内委員D:分子研も基本的には法人化に反対してます。大学の理学部と同じ立場です。プロジェクト志向型の研究 は法人化に適しているが,基礎研究にとって年次計画で結果を求められても困ります。現在,分子研と しては国立の高等研究所構想を考えています。
所外委員B:法人化に反対して,例外的存在が可能であるならば高等研究所構想はおもしろいですね。しかしそのた めには,建物,人材などそれなりの『器』が必要ではないですか?
所外委員A:それに高等研究所であるためには,外からのサポートが必要でしょう。
所外委員B:外の大学からのサポートが難しければ,ヨーロッパとの連合高等研究所構想などはできないでしょうか ね?
所内委員D:21世紀の構想のなかで,税金を使っていることへのアカウンタビリティーが必要な気がしますが,どう 考えられますか?
所外委員B:納税者(一般大衆)へのアカウンタビリティーは必要ないでしょう。
所内委員D:しかし,天文学などは一般大衆へのうまいアピールで多額の研究費を獲得しています。
所外委員B:ライフサイエンスの領域を,分子研レベルの分子科学まで引き上げるような努力をすれば良いのではな いですか?
所外委員A:生物学・生理学の問題を分子科学として分子研が取り上げるという考えは20年前なら良かったが,今か
らでは手遅れですよ。現在の遺伝子操作・発生分化操作技術は,分子科学基礎レベルで説明できるよう なものから遙かに先を走っています。生物の上流だったはずの物理学・化学が,今は下流になりつつあ る。
所内委員D:環境科学に対する分子科学の貢献が可能ではないでしょうか? 所外委員A:大変どろくさい研究になって,研究所全体でやれますか?
所外委員B:それに,環境科学の研究所はすでに2つありますので,ずっと後発になります。
所外委員A:そう考えていくと,物質科学の分野に展開していくのがオーソドックスな展開方向ですね。系の改組を 考える考える前に,研究系を越えた共同研究プロジェクトを進めては如何ですか?
所外委員B:確かに系を越えた共同研究による,変幻自在なアメーバー的プロジェクト研究を推し進めるのは良いで すね。研究テーマによって協力する系の組み合わせが自在に変わっていくようなプロジェクトです。 所外委員A:これまで,本気でこのような系を越えた共同研究プロジェクトを考えた人がいなかったのではありませ
んか? 系を越えた共同研究プロジェクトを強くひぱっていく人が必要です。 人事問題
所内委員D:教授人事で教授にきてくれる人が少ないという問題はどうお考えですか?
所外委員C:教授候補者が分子研へきたがらないのは,もうすでに研究や研究体制がかなり確立したシニアな人を選 んでいるからではないのですか?
所外委員A:分子研の教授人事選考の方法が硬直化しています。固すぎます,柔軟性に欠けていると思います。もっ と柔軟・敏速に人事選考すべきです。最初から書類審査に始まり,候補者全員の論文査読,等々すべて の手続きを固くとっていく。これでは良い人を柔軟・敏速に採ることができませんし,時間の無駄です。 所外委員B:バイオセンターの件にしても,高等研究所構想にしても,それを推し進める上で「器」だけは確保して
ほしいですね。欧米の一流の研究施設をみるときに,分子研は研究所としてのインフラストラクチャー を堅持すべきです。
所外委員A:その通りです。経費削減のために研究者が草抜きをするなんてことはやめるべきですよ。
4-2-2 国内委員の意見書
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 委員A 評価委員会でとくに話題になったことが二つあったと思う。第一は,齋藤修二氏が定年で退職された後の人事に関 係して,高分解分光分野を分子研で今後どう取り扱ったらよいかという点であった。分子研発足以来,廣田榮治,齋 藤修二の2代の教授が多くの輝かしい研究業績をあげ,分子研の名声を高からしめたことは衆目の一致するところで あろう。そもそも高分解分子分光は分子科学の基幹的手法であり対象であるから,この分野で今後有望と目される人 材がいるのなら,やはりこの分野は分子研として保持してほしいと私は思っている。しかし,どうしても適当な人材 が得られないのならば,他の分野の有望研究者を当てることも止むを得ないであろう。
もう一つの話題は,生体分子関係の分野を分子研で拡大すべきかどうかというものであった。私はこの問題につい て mixed feeling を持っている。私自身も生体分子の研究を行ってきたつもりなので(現時点ではほとんど行っていな いが), そのような視点から見て,分子研がこの分野を重視するのが遅かったと常々思ってきた。もちろん,分子研で は北川教授がラマン分光によるヘム蛋白の研究で世界的な業績をあげてこられたが,分子研の相当大きな部分がこれ からこの分野に参入するとなると,生物科学にどういう切り口で挑戦するのかよほど考えなければならない。生物科
学の過去20年間の進歩は恐ろしいほどのものがあり,分子科学に一番近い構造生物学も活気溢れる分野に成長してい る。分子生物学と薬学,医学との距離が縮小し,分子生物学自体も急速に変質しつつあるように見える。このような 状況下で,分子科学が本当に意味のある貢献ができるだろうか。個々の研究者がばらばらに自分が興味を持っている ことを研究するだけでは,大きなインパクトは期待できない。ユニークな研究課題について組織的な研究を展開する ことができなければ,出遅れを取り戻すことは不可能であろう。よほどの覚悟がなければ出来ないことだと思う。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 委員B 分子構造研究系は気相での短寿命分子の高分解能分子分光と生体系の時間分光を中心としてこれまで先駆的な業績 をあげてきた。この研究系の分野は分子研の研究の中でも最も基礎的な実験研究を指向したものであり,分子研が今 後,どのように進展するかによらず,このような「基礎の基礎」をコアとして確保することは重要である。高分解能 分子分光の実験手法は完成度が高いように見えるので将来的にはなばなしい発展が期待できないという見方もあるが, 信頼性の高い分光データは今後とも分子科学の進歩を支えるものである。最近の星間分子に関する分光情報は狭い意 味の化学の領域を抜け出て宇宙科学に大きな貢献をした。このような形が堅実な分子科学のあるべき姿の好例といえ る。生体系や少数多体系での分子間相互作用の定量的な情報を含んだ分光データを得ることも,慶昧な推論に基づい た議論より重要な作業である。生体系などに見られる微妙な分子間相互作用の解明にも結局,分子分光学的な研究が 最も基礎になるものと考える。
これまでの構造研究系が辿ってきた道は大筋で正しいものであり,種々の外圧によって改変が迫られているように 見える現在こそ,分子研が四半世紀をかけて築いてきた研究の路線に自信をもってよいと考える。しかし,勿論,現 状維持にとどまることは許されない。そこで,仮にエージェンシー化が進み,運営の自由度が増すものとして,これ を機に思い切った若手リーダーの登用を進めることが望まれる。また,快適な生活空間を含むインフラストラクチュ アーの整備に力を入れ,これによって欧米諸国から見ても真に魅力的な研究機関に発展すること,さらに,アジア地 域の研究者との実質的で長続きのする研究交流を推進することが期待される。
共同利用研のあり方:
分子研の本来の目的の一つは,大学だけでは果たせない研究交流,人事の流動を促進することにあった。しかし,国 立大学のエージェンシー化の流れが始まり,大学の事情が流動的な方向へ向いそうな現在,共同利用研としての分子 研のあり方については率直に云って十分な見通しをもつことができない。ヨーロッパの各国とくにヨーロッパ連合に 加盟の国々はいろいろな形での提携や共同作業を模索しつつあるように見える。この際はその動きをよく把握して参 考になり得るものは取り入れる努力をしてみるのもよいのではないか。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 委員C (1)当該研究系の研究分野での分子研の役割,寄与と位置付け
当該研究分野での研究はレーザーを駆使した分光と関連する基礎科学(基礎化学,物理)が中心となっている。そ の面で,短期間の特定のテーマの研究が主流である分子研内の他の研究系とは異なり,長期的な視野を持った基礎的 な研究を行うという使命を持っている。このような基礎科学の研究は,将来の分子科学に重要な寄与と位置付けを持っ ている。現在のこの研究系は少数のメンバーであるにもかかわらず,世界の最先端を行く研究がなされていると思わ れる。
(2)この分野の国内国外での研究分野としての重要度
この分野は国内,国外を通して現在最も重要な研究分野の1つである。例えば,当該研究系で推進している反陽子 ヘリウムの研究は独創的で,我が国が誇る研究の1つである。またレーザー冷却を駆使した研究は分子科学において ますます重要になってくることが予想されるが,当該研究系で推進しているヘリウム原子のレーザー冷却の研究は日 本で唯一のものであり,特に励起状態の冷却原子の衝突に関する立派な成果をあげている。
(3)今後この分野の発展はあるか,どのような方向か
この分野の発展は従来以上に非常に期待できると思われる。特に原子や分子の運動を光や特異な環境のもとで制御 することで,より高分解能に物質の状態を知ることができる。さらに,このような制御は新しい分子の生成(たとえ ば分子研の当該分野で行われている反陽子ヘリウムのようなエキゾティック原子分子の研究)などの新しい研究が期 待できる。また,レーザー冷却などの新しい技術を用いた超低温下での分子分光,化学反応は分子科学の基盤となる 今まで得られ難かった重要な知見をもたらすことが期待される。
(4)分子研の当該研究系が今後,どのように進むべきか
上述したように当該研究系は分子研の中で,レーザー分光を基盤とした長期的な基礎研究を行うといった特異的な 存在で,分子を化学の観点から研究する他の多くの研究者の中で,唯一物理学的な視野に立った研究が行われている。 分子研全体のバランスから,この分野の研究者がもう少し多くなることを望みたい。
将来構想
(5)分子研の共同利用機関としての現状と,将来への提言
分子科学における各種データをより充実し,これらの中心地となり,外部から用意にアクセスできるようにしてい ただきたい。また,上述のように,現在化学が中心となっている分子研の分野の枠を多少広げ,物理学,生物学の分 野の分子科学者の増強を望みたい。
(6)分子研に対する建設的批判,提言
良い研究所は若い研究者にとって魅力のある研究所である。優秀な若い人材を集めるには人事公募に内部からの研 究者も応募できるようにしてはどうか。
4-2-3 国外委員の評価
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 原文 Report for Prof. Kato
The main scientific activities of Professor Kato are twofold:
(i) Site selective spectroscopy in the solid state applying Raman Heterodetection of Magnetic Resonance:
This elegant technique was already invented by Professor Brewer in 1983 at IBM in San Jose and has been exclusively applied to rare earth impurity ions in inorganic crystals until Professor Kato’s work. The method combines radio frequency with optical frequencies in order to produce coherent states in atomic ions and by detecting the beating between the laser frequency and the anti- Stokes Raman signal produced in the system one is able to derive high resolution splittings in the Mhz range. While Brewer’s group investigated the hyperfine splittings of the Pr3+ ion, Professor Kato extended this work to study the La3+ ion in two ways. First he tried to derive the splittings of the 3Po levels which are of the order of about 1 Mhz. Since the jitter of his laser is of the order of 1.5 to 2 Mhz he could not succeed for this study. However, most interestingly, he was able to find new signals in the range between 2 and 5 Mhz which he could interpretate to the contribution of different sites of the La ion relative to the Pr ion by calculating the magnetic dipole interactions.
A real breakthrough, however, was certainly the application of this technique to molecular crystals. By converting the technique in going from the ground state to the electonic state by the optical step and then using the radio frequency he could study high resolution splittings in the excited state in a molecular crystal and could measure for the first time the triplet exciton in 1,4- dibromonaphthalene using this technique. This lead to an excellent publication in Phys. Rev. Lett.
(ii) Study of the molecular and electronic structure of radical ions of fullerenes and metallofullerenes by EPR and ENDOR measurements:
Particularly the investigations of metals inside the carbon cage and the chemical properties of such systems as a whole and as related to their chemical reactivity are of great general importance. By high field pulsed ESR he could study the metallofullerenes Sc@C82, Y@C82, and La@C82. Of special interest are also his studies by varying the size of the cage (C76 to C90) and the work on La in the two isomers of C82. Pulsed ENDOR measurements on these systems round up these investigations.
Further studies performed in Professor Katos’ group are:
(iii) Double resonance spectroscopy using two phase-locked lasers:
The technique has already been set up and there will very interesting experiments being done related to dephasing processes in excited molecules or phase controlled reaction dynamics in the future.
(iv) State correlated Raman spectroscopy for the elucidation of phase transitions:
Professor Kato has started with investigations of the orientational ordering in the ferro- and antiferroelectric liquid crystal molecule MHPOBC.
Both approaches (iii and iv) are of high scientific interest.
Report for Prof. Morita
The scientific work of Professor Morita and his group is related to fundamental physical problems mainly in the field of (i) laser cooling and trapping of neutral atoms, (ii) spectroscopy of atoms and ions in liquid helium, and (iii) laser investigations of an antiproton-helium compound, which he calls “atomcule.” Their results have been published mostly in the leading physics journals Phys. Rev. and Phys. Rev. Lett.
To (i):
The main experimental achievement clearly is the construction of a magneto-optical trap (MOT) for metastable helium-3-atoms. While there has been several demonstrations of laser trapping of the bosonic isotope 4He, laser trapping of the fermionic isotope 3He has never been demonstrated before. By confining 3He and 4He in their respective MOTs, the Morita group was able to measure the ionization rate coefficients for Penning collisions between two cold He atoms and could therefore study the difference in cold collision dynamics. The interpretation of the isotopic difference is not trivial but could be interpreted by considering the various ionizing channels and the degree of degeneracy which is different for 4He* + 4He* and 3He* + 3He*. Fairly good agreement between the experimental values of the ionization rates for He (2s 3S1) + He (2s 3S1) collisions could be obtained whereas the agreement is not so good for He* + He* collisions in the presence of laser light. This outstanding work could be published in Phys. Rev. Lett. There is a great challenge to use particularly the 3He trap to perform Bose-Einstein condensation of fermionic atoms. Most impressive is the experimental set-up which contains a home-made single-mode cw ring LNA laser.
To (ii):
They have measured some excitation and emission spectra of Mg and Ca in liquid 3He in order to observe interesting phenomena
which arise from quantum features differing between liquid 3He and 4He. In this context they have presented a new model of exciplex formation between Mg and He and found that this model is more suitable for understanding the dynamics in the studied transition than the bubble model used earlier.
Also very interesting results were obtained from the Yb+ ions in liquid helium which were produced by laser sputtering. A double resonance excitation from the 2S1/2 into the 2P1/2 and 2P3/2 states showed sharp emission only from the 2P1/2 state because of fast relaxation from the 2P3/2 to the 2P1/2 state. The frequency shift as well as the the linewidth in the observed double line structure for the D2 excitation spectrum could be explained by a theory envolving a vibrating bubble model.
To (iii):
Most of the papers published during 1996 until 1998 of Professor Morita’s group were on laser investigations of antiproton helium compound, an unusual species which is the first long-lived exotic atom containing hadrons other than normal protons and neutrons. On this new compound (“atomcule”) laser spectroscopic investigations were performed in order to study its properties and dynamics. Of particular interest is their report on the first observation of laser-induced resonant annihilation. This work has been performed at CERN together with nuclear physicists.
Report for Prof. Kitagawa
The scientific achievements of Professor Teizo Kitagawa and his group in the field of biomolecular science are outstanding. The research activities of this group cover a very widespread area ranging from the development of special Raman techniques including picosecond time resolved resonance Raman (TR3) spectroscopy and the construction of coherent light sources required for their particular research, up to a great many of very thorough studies of problems in biochemical science. It would be too much to summarize comprehensively all the work done by this group during the period from 1996 to 1999. In the following only a few selected investigations which were performed in Prof. Kitagawa’s laboratories and which are regarded to have the highest scientific impact will be summarized:
(i) In a very exciting contribution to „Science“ he reports on the direct observation of cooling of heme upon photodissociation of carbonmonoxy myoglobin. The formation of vibrationally excited heme and its subsequent vibrational energy relaxation has been monitored by applying picosecond anti-Stokes Raman spectroscopy yielding a vibrational relaxation time constant of 1.9 ps for the CO-photodissociated heme. This most important study allowed the direct observation of the vibrational energy flow through the protein moiety and to the water bath.
(ii) Another most important work, which has been published very recently in J. Chem. Phys., is related to the intramolecular vibrational redistribution (IVR) and intermolecular energy transfer (IET) in the (d,d) excited state of nickel octaethylporphyrin (NiOEP). While comparable work has been performed before for small molecules, this is the first detailed quantitative study of the time evolution of the two processes (IVR, IET) for large molecules in solution. By successfully applying picosecond TR3- spectroscopy the group demonstrated that their technique is very powerful to study the mechanism of vibrational energy relaxation. (iii) Very impressing work of the group – published in „Biochemistry“ – is also their study on the two quaternary structures of hemoglobin (Hb), called T (tense) and R (relaxed), which correspond to the low-affinity and high-affinity states, respectively, and whose typical structures are seen for deoxy and CO-bound forms, respectively. They examined the Fe-His bonding of α heme and the intersubunit interactions at the α1-β2 contact of αNO-Hbs under various conditions with EPR and UV resonance Raman (UVRR) spectra excited at 235 nm, respectively. In particular, they present UVRR spectra for normal NOHb, the half-
ligated αNO- βdeoxy, and the mixed ligated αNO- βCO in the presence and absence of an effector. From these studies they could derive valuable information on possible correlation between the Fe-His bonding of a hemes and intersubunit interactions at the α1-β2 interface for the quaternary structure change.
(iv) Applying time-resolved (0.1 to 5 ms) resonance Raman difference spectroscopy Professsor Kitagawa investigated the mechanism of dioxygen reduction catalyzed by cytochrome c oxidase (CcO), the terminal enzyme of the respiration chain of aerobic organisms. While extensive efforts have been made previously to elucidate the reaction mechanism of this enzyme using time- resolved absorption, cryogenic absorption, EPR, and non-time-resolved resonance Raman spectroscopy mainly by other groups, it has now been shown that the above mentioned technique applied by Prof. Kitagawa, is uniquely powerful for elucidation of the reaction mechanism of CcO, since only this technique is able to detect the vibrations of dioxygen and its reductive intermediates bound to the catalytic site during the enzymatic turnover. Their results —published in J. Am. Chem. Soc.— open a new page in understanding the mechanism of dioxygen reduction by CcO and its coupling with proton pumping. In a subsequent publication in the same journal, they explored the role of one of the four redox active metal centers (CuB) in the proton-pumping function of CcO by making use of time-resolved IR measurements.
Besides the above mentioned five papers which are of particular general interest and which rank as outstanding scientific achievements, Professor Kitagawa published another 41 papers in highly recognized journals during the last three years. He applies sophisticated experimental instrumentation to study a wide range of topical problems in the field of biomolecular science and fast dynamics of photoproducts in solution phases. The very high level of science performed in his laboratories has won worldwide recognition and I am sure that also other colleagues working in the field of Raman spectroscopy would join me to regard Professor Kitagawa as one of the leading scientists in the area of time-resolved Raman spectroscopy of biochemical molecules.
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 訳文 加藤助教授のグループに対する報告
加藤助教授のグループの研究成果は大きく二つに分けられる: (i) 磁気共鳴のラマンヘテロダイン検出による固体中のサイト選択分光
この手法は1983年にIBMサンノゼ研究所のB rewerによって創始されたものであるが,その応用はこれまで無機結晶 中の不純物希土類イオンの分光に限られていた。この方法はラジオ波とレーザー光とを組み合わせて原子イオン中に コヒーレント状態を作り出し,そこからの反ストークス光とレーザー光とのビート信号を検出することによって MHz レンジの高分解能分光を可能にするものである。B rewer のグループはこの方法によって Pr
3+
イオンの超微細構造の研 究を行ったが,加藤助教授のグループはそれを L a
3+
イオンの研究に拡張した。まず最初に,僅か 1 MHz 程度しかない
3
Po状態の分裂を観測することを試みたが,レーザーの周波数ジッターが1.5–2 MHz 程度あったためこれは不成功に終 わった。しかしこの実験では,非常に興味深いことに,2–5 MHz レンジに新しい信号が見出された。これは,磁気双
極子相互作用の計算から,Prイオンの場合とは異なったサイトのL aイオンからの寄与であると解釈することが出来た。 しかし,最も画期的なことはこの方法を分子結晶に応用したことである。すなわち,この方法を逆ラマン型に転用す ることによって分子結晶の励起状態の超微細分裂を高分解能で分光することができ,その結果 1,4-dibromonaphthalene の三重項エキシトンを初めて観測することができた。この傑出した研究はPhys. Rev. Lett. 誌に掲載されている。 (ii) EPRおよびENDORによるフラーレンおよび金属内包フラーレンのラジカルイオンの分子・電子構造の研究
炭素ケージの中の金属の研究やこのような系全体の化学的性質およびそれらの金属の反応性の研究は一般に非常に
重要である。加藤助教授のグループは高磁場パルスESRによって金属内包フラーレン S c@ C82, Y @ C82, および L a@ C82
の研究を行った。特に興味深いことは,炭素ケージの大きさを変えて研究したこと(C76から C90まで),および C82の 二つの異性体について L a を調べたことである。パルスENDORによる測定はこれらの研究をさらに深めた。
その他の研究:
(iii) 位相ロックされた2台のレーザーを用いた二重共鳴分光
この方法のための装置は既にセットアップを終えており,励起状態の分子の位相緩和過程や位相制御された化学反 応に関する興味深い研究が将来期待される。
(iv) 相転移の解明のための状態相関ラマン分光
加藤助教授のグループは,強磁性および反強磁性液晶 MHPOB C における方向整列性の研究を始めている。 両研究ともに非常に科学的興味の持たれるものである。
森田助教授のグループに対する報告
森田助教授およびそのグループの研究は,主として (i) 中性原子のレーザー冷却・トラップ,(ii) 液体ヘリウム中の原 子・イオンの分光,(iii) 反陽子ヘリウム化合物(atomcule)のレーザー分光研究というような基礎物理学的問題に関す るものである。それらの研究結果のほとんどが世界的に評価の高い物理学雑誌であるPhys. Rev. 誌および Phys. Rev. Lett. 誌に掲載されている。
(i)に関する報告:
主たる実験的な成果は準安定ヘリウム‐ 3原子の光磁気トラップ(MOT)の達成である。これまでにボゾンである ヘリウム‐ 4のトラップはいくつかのグループで行われてきたが,フェルミオンであるヘリウム‐ 3のトラップは全 く例がない。さらに森田グループでは,
3
He と
4
He とをそれぞれのトラップに閉じこめて,冷却された原子同士の衝突 によるペニングイオン化の速度定数を測定し,両同位体における衝突過程の差異を研究した。その差異の解釈は簡単 ではないが,
4
He* +
4
He* 衝突と
3
He* +
3
He* 衝突とで異なるイオン化チャンネル数と縮退度を考慮することによって 理解することができた。この解釈に基づくイオン化速度の計算値と実験値とは,レーザー光が存在する場合の衝突で はそれほど良い一致は得られていないが,レーザー光が存在しない場合すなわち He ( 2s
3
S1) + He ( 2s
3
S1) 衝突の場合 はかなり良い一致が得られた。この傑出した研究はPhys. Rev. Lett. 誌に掲載されている。この3He トラップを用いると フェルミオン原子のボーズ・アインシュタイン凝縮という大きなチャレンジが可能であろう。自作のリング型単一モー ドLNAレーザーを含めこの実験の実験装置には強い感銘を受けた。
(ii) に関する報告:
森田グループは,液体ヘリウム中の Mg および C a 原子の励起スペクトルおよび発光スペクトルを測定し,液体
3
He と
4
He とで異なる量子性に起因する興味深い現象を観測した。彼らはこの観測結果の解釈において, 液体ヘリウム中 に Mg と He とのエキサイプレックスが生成しているというモデルを提案し,このモデルによって観測された遷移のダ イナミクスを従来の単純なバブルモデルよりもうまく説明できることを示した。
レーザースパッタリングによって液体ヘリウム中に生成された Y b
+
イオンに関しても非常に興味深い結果が得られ ている。
2
S1/2 状態から
2
P1/2 および
2
P3/2状態へのレーザー励起に対して
2
P1/2状態のみから狭いスペクトル幅の発光が 見られた。これは
2
P3/2状態から
2
P1/2への速い緩和が存在しているためである。それぞれのスペクトルに見られた周波 数シフトや線幅および D 2線の励起スペクトルに見られたスペクトルの分裂は,振動するバブルのモデルによって説明 することができた。
(iii) に関する報告:
1996年から1998年にかけての森田助教授のグループの論文の大部分は反陽子ヘリウム化合物のレーザー分光学的研 究に関するものである。この極めて希な化合物は,普通の陽子や中性子以外のハドロンを含んだ初めての長寿命エキ ゾチック原子である。彼らはこの新しい化合物(atomcule)の性質やダイナミクスを調べるためにレーザー分光学的研 究を行ったわけであるが,レーザー誘起消滅の初めての観測に関する報告はとりわけ興味深い。この研究はCERNに おいて原子核物理研究者とともに行われたものである。
北川教授のグループに対する報告
生体分子科学の分野における北川禎三教授およびそのグループの研究成果は傑出している。このグループの研究成 果は,ピコ秒時間分解共鳴ラマン(TR
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)分光をはじめとする特殊なラマン分光法の開発や彼らの研究に必要なコヒー レント光源の製作から生体分子科学における非常に多くの徹底した研究まで,極めて広い範囲にわたっている。した がって,このグループの1996年から1999年までの全ての研究を分かり易くまとめるのはたやすいことではない。この ため,以下では,北川教授の研究室において行われたもののうち最も大きなインパクトを持つと思われるもののみを 選んで総括する。
(i) 「Science」誌に発表された非常にエキサイティングな論文の中で,carbonmonoxy myoglobinの光解離におけるヘム の冷却の直接観測を報告している。振動励起されたヘムの生成およびそれに続く振動エネルギー緩和をピコ秒アン チストークスラマン分光法によって観測し,C O が光解離した後のヘムの振動緩和時間として 1.9 ピコ秒が得られ た。この最も重要な研究成果は,蛋白の一部を通り抜けて水溶媒に至る振動エネルギーの流れを直接的に観測する ことが可能となったことを意味する。
(ii) もう一つの最も重要な研究は,nickel octaethylporphyrin(NiOE P)の(d,d)励起状態における分子内振動再配分(IVR) と分子間エネルギー移動(IET)に関するものであり,これはごく最近J. Chem. Phys. 誌に発表されている。同種 の研究は小分子に関しては以前に報告されているが,溶媒中の大きな分子に対してこれらの二つの過程(IVR,IET) の時間発展を定量的に詳しく研究したのは初めてである。この論文では,ピコ秒TR
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分光法を上手く適用した彼ら の手法が振動エネルギー緩和のメカニズムの研究に極めて有効であることを実証して見せている。
(iii) ヘモグロビン(Hb)の二つの4次構造に関する研究もまた非常に興味深い研究であり,それは「Biochemistry」誌 に発表されている。それらの4次構造はT(tense)およびR(relaxed)と称されるが,それぞれ低親和性,高親和性 の状態に相当していて,それらの典型的な構造はそれぞれ deoxy 型,C O-bound 型に対して見られている。彼らは, 様々な条件下のα‐ ヘムの F e-His bonding およびα
NO
-Hb のα1-β2 サブユニット間の相互作用をそれぞれEPRと波 長 235 nm の励起光を用いた紫外共鳴ラマン(UVPR)スペクトルで調べた。とりわけ,イフェクターが有る時と 無い時の両方に対してノーマルな NOHb,half-ligated α
NO
- β
deoxy
および mixed ligated α
NO
- β
C O
のUVPRスペクトル が測定されたことは特筆される。これらの研究から,4次構造変化に対するα‐ ヘムの F e-His bonding とα1-β2 界 面におけるサブユニット間相互作用との間の相関に関する有益な情報を引き出すことができた。
(iv) 時間分解(0.1–5 ms)共鳴ラマン差分分光によって北川教授のグループは,好気性生物における呼吸鎖の最終酵素 である cytochrome c oxidase(C cO)の触媒作用によって引き起こされる酸素還元反応のメカニズムを研究した。こ れまでこの酵素の反応メカニズムの解明には,時間分解吸収法,極低温吸収法,EPR,あるいは非時間分解共鳴 ラマン分光法などを用いて多くの努力が払われてきたが,北川教授によって用いられた上述の方法が C cO の反応 メカニズムの解明のためには唯一有効であることが示された。すなわち,この方法だけが,酸素分子の振動や酵素
始動時に触媒サイトに結合している酸素分子の中間状態の振動を検出することができるのである。この研究の結果 はJ. Am. Chem. Soc. 誌に掲載されているが,CcO による酸素還元反応メカニズムおよび脱酸素還元過程とプロト ンポンピングとのカップリングのメカニズムの理解に新しいページを開くものである。また,同じ雑誌に引き続い て発表された論文では,時間分解赤外分光測定により,C cO のプロトンポンピング機能における4つの酸化還元 活性金属中心(C uB)のうちの一つの役割が調べられている。
上に挙げた特に興味深くランクの高い5つの論文の他に,北川教授は過去3年の間に41報の論文を世界的に評価の 高い科学雑誌に発表している。このグループは高度な実験装置を駆使して生体分子科学や溶液中の光反応生成物の高 速ダイナミクスの分野における広範囲な問題を研究している。北川教授の研究室で達成された研究成果のレベルの高 さは世界に良く知られており,北川教授が生体分子の時間分解ラマン分光の領域における世界の第一人者の一人であ ることはこの分野の誰もが認めるところである。